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ククールに質問 Q「ククールさんはゼシカさんのこと好きなんですか?」 A「はっ?誰があんなじゃじゃ馬。オレはもっとおしとやかで守りがいのある女の子が好みなもんでね。 まぁ、いい女ってのは認めるよ。あの顔にあのボディ、闘わせれば武器は使いこなすわ魔法は強いわ、 頭はいいし品もある。…そのわりに常識ねぇっつーか世間知らずつーか無防備つーか 言ってることとやってることに差がありすぎるっていうか 身体は一人前どころか十人前くらいのくせして頭はお子チャマっつーか このオレが何度襲うぞゴルァってなったかわかってんのかイヤぜってぇわかってねぇんだろうけど とにかく危なっかしくて放っとけねぇんだよ全く」 Q「…………好きじゃないんですよね?」 A「だからそう言ってんだろ」 ゼシカに質問 Q「ゼシカさんはククールさんのこと好きなんですか?」 A「はぁっ!?冗談よしてよッ誰があんなケーハク男!!私はもっと誠実で真面目な人が好みなの!! ……………ま、カッコイイってのは認めるわ。顔はね。背だって高くてスタイルもいいし、 サラサラの銀髪も素敵だし。レイピア使わせると達人だし弓も得意だし魔法まで強いしね。 ……………………で、も!その全てを鼻にかけて遊び歩いてるところが許せないのよ!! いつでもどこでも女の子女の子って、デレデレしちゃってホンット不真面目なんだから…! ……私にだってそうよ、何かと護ってくれたり気を使ってくれたりやたらに女の子扱いして…… …何よ、下心見え見えのくせに。どうせ胸しか見てないくせにッ。どうせ本気じゃないくせにッッ!! ククールのバカーーーッッ!!!!!!」 Q「好きなんですか?」 A「あんなヤツだいッッッッッキライよ!!!!!!!!!!!!」
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DQⅨ ビシッとしまった【ククール】の赤いズボン。守備力は13で、全職業で装備可能。 入手方法は僧侶に転職してククールに話しかけるともらえる1つのみ。 ククールのコスプレ装備の一部分で、称号「イケメン聖堂騎士」の獲得に必要な装備でもある。
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ククールが宿の一階に降りてくると、エイトとヤンガスが受付前に設けられたソファに腰掛けてまったりしていた。「…やぁ、ククール」エイトが、気の抜けた笑みで手を挙げる。彼らも疲労に満ちた顔をしている。ククールは苦笑した。「…おう」「ゼシカ、落ち着いた?」「なんとかな」「それはよかった」ソファに深々と座り込んで、ふぅ、と息をつく。ククールもその横に座った。「……ったく、俺の寿命50年分は返せってんだ」ヤンガスが不機嫌に呟き、エイトも同調してうんうんと頷く。しかし本当に疲れているのだろう、それ以上ククールを責める声は聞こえてこなかった。それよりも、安堵のほうが勝っているようだ。ククールも重ねて謝ることしかできなかった。そして彼らの想いが、やっぱりくすぐったかった。ククールが彼らの前に姿を現した時、大騒ぎのあとひとしきり小突かれ、殴られ、罵倒されて、それでもあのトロデやヤンガスやエイトが目に涙を浮かべているのを見て、ククールは謝罪と感謝と、ことの経緯を伝えようとした。しかしすぐに「そんなことはどうでもいい」と耳を疑うようなことを言われ、そして「すぐゼシカのところに行け」と強引に促されたのだった。今、ククールは改めて奈落に落ちてからの数日間のことを説明し、本当に死にかけたと笑った。「笑いごとじゃないよほんと…。体は?大丈夫?」「あぁ、助けられてからどっかの神父が回復してくれたみてぇでさ。全快じゃないけどケガもねぇよ」「ちゃんと休んでないんだろ?」「いや、しばらくあっちで休ませてもらったから。自分にホイミできるくらいには休んだ」「腹はへってねぇんでげすかい」「断食状態だったからいきなり食べると良くないってんで、軽いもんだけ食わせてくれたから 今は減ってねぇな。多分明日には食欲も元に戻るんだろうぜ」あっけらかんと話すククールに(それはわざとなのかもしれなかったが)、仲間たちは心底脱力し、笑った。「…まったく…。その調子だと、ゼシカに殴られたんじゃないの?」「――え、いや。…………アイツ泣きっぱなしで、それどころじゃ」照れ隠しなのかあさっての方向を向きながらボソボソ呟くククールに、エイトとヤンガスが顔を見合わせる。「…泣いてた?ククールがいなかった間、ぼくたちゼシカが泣いてるの見たことなかったよ」「……え?だって、あんなボロボロ…」その時、階段を転げ落ちるように降りてくる騒がしい足音が響いて、3人はビクリとそちらを振り返った。階段の手すりにすがるようにして、今にも倒れそうな足どりで、ゼシカがそこにいた。最後の段差を降りたところでドサリと床に座り込むのを、ククールが驚いて駆け寄る。すぐにゼシカの指がククールの腕を強く掴んだ。「――よかっ、た…っ、ククール…ッ」ゼシカは精いっぱいの笑顔でククールを見上げながらしがみついた。「…ッや、やっぱり、ゆめだったって、…おも…」悲壮な笑顔はたちまち歪み、あっというまに両の目から大粒の涙を流し始める。ククールはようやくしまった、と軽率だった自分に舌打ちした。反省するが、遅い。「わ、悪かったゼシカ。ごめんな、置いてって悪かった」「…っや、だ、もう…っやだぁ…っ」うわぁぁと泣き声をあげるゼシカと同時に、内心でうわあああと大焦りの悲鳴を上げながら必死で彼女を抱きしめあやそうとするククールの背中に、「……まさかククール、黙って置いてきたの…?」信じられない、と呆れを通り越して軽蔑すら感じさせる冷たい声が突き刺さる。「ち、ちが…っ、黙ってつーか、寝てたから!」「…………それ、余計サイテーだよ」「えええ」再び仲間たちに追いやられ、ククールはゼシカを抱き上げて追いたてられるように部屋に戻った。エイトとヤンガスは肺も吐き出さんばかりの巨大なため息をつく。「……なんであんなに世話かかるの、あの2人」「げす」しかし突然に訪れる死の別れに比べればあまりにも平和すぎるくだらない問題に、2人とも諦めたように苦笑した。 *ゼシカをベッドの上に座らせる頃には、ククールも自分のしでかしたことのマズさに気づいていた。それは彼女の立場になって鑑みればすぐにわかることだったのに。「ゼシカ…ごめん」渡されたタオルで涙を拭きながら、ゼシカはようやくおずおずとククールと目を合わす。気を抜けばまた泣いてしまいそうなのを堪えながら、真っ赤になってしまった目でククールを見つめる。ククールは彼女の前に跪いて見上げながら、その視線に答えるように冷たい頬に両手を添えた。「…オレが悪かった」「ッ、ち、ちがうの…私、ご、ごめんなさい…今、ほんとに…ダメなの…ごめん…」「もうどこにも行かないから」そう告げられた途端、ゼシカはくっ、とのどを詰まらせ、涙を飲みこむ。「…ごめん、なさい…私…今、変だから…」「ずっと心配してくれてたんだろ?」ゼシカは大きな瞳を見開いて、それからゆっくりと頷きながらまぶたを閉じた。頬に触れているククールの手に涙が伝う。「…私、自分でもどうしようもないくらい、動揺しちゃって、本当に、もう、ずっと、ずっと…」ゼシカは消えそうな声で、啼きながら話す。「…もし、このままククールが帰ってこなかったら、って…もう、会えなかったら、って…考えて、死にそうになった…こんなのもうイヤだって、ずっと叫んでた…」ククールは痛々しげに目を細めた。…そうだ、自分はゼシカのトラウマを抉るような真似をしてしまったんだ…「こんなに、こんなに、ククールが大切だったなんて、思わなかったの。大切だったけど、こんなにも苦しいなんて、思わなかったの…」「…オレもだよ」「…ククールも…?」「助け出されるまで、ゼシカのことしか考えてなかった。もしもう会えないなら、なんであの時こうしておかなかったんだとか、ああ言っておかなかったんだとか、後悔ばっかりで死にそうだった」「…私もよ」再びゼシカは涙が抑えられなくなり、肩を震わせながら頬を包む彼の手に自分の手を重ねた。「…何回も、何回も…、ッ…、ククールが帰ってくる幻ばっかり見えた…声が聞こえて、慌てて振り向いても、誰も、いないの…ッ…必死で探しても、どこにも…」「オレは幻じゃない。絶対にもう消えたりしない」「…ッ、だ、から、さっき、起きたら、ククールがいなくて、私…ッ」倒れこむように声をあげて泣き出した身体を抱きながら、ククールもそのままベッドに腰掛けた。―――幻ではなく今度こそ本当に帰ってきたのだと思ったはずの相手が、目覚めたときそこにいなかったら、どんな気持ちがするだろう?暗闇で一人目を覚ましたゼシカは、どんな思いでオレの姿を探したんだろう。ゼシカは、魂のよりどころになるほどに大切だった人を、過去に一度失っている。その時の喪失感は、彼女の中に思ったよりずっとずっと深く根付いていたんだろう。そして自分が思っていた以上に、オレは彼女に必要とされていたんだと、思い知った。自分が彼の人と同じだけ想われているなんて自惚れはしないけれど、それでも、絶対に、自分は彼女を一人にするべきではなかった。ずっとずっと、抱きしめていてやるべきだったんだ…腕の中で震える身体を、ククールはもう手加減などできず強く強く抱きしめる。この腕は幻想なんかじゃないのだと、彼女にわからせるために。再びゼシカが泣きやみ、しばらくの間心地よい静寂の中で2人抱き合っていた。しかしふいに部屋の隅に置いてあったランプの灯が消え、薄暗かった室内は唐突に暗闇になってしまった。タイミングの悪いことで、などとボヤキながらククールが火を灯すために立ち上がろうとすると、ゼシカが慌てて彼の腕を掴み、ぐいっと引っ張ったのだ。「…?どうした?」「えっ…」当の本人もびっくりしたように、掴んだばかりの腕を離す。そしてなぜか顔を赤く染めて俯いてしまった彼女を、ククールは無言でじぃっと観察するように見つめたあと、少しの罪悪感を覚えながらもこっそり苦笑してしまう。ほんの数歩だけの距離を、さっさとランプに火をつけて戻ってくる。再びベッドに座ったと同時に、ゼシカがククールの胸に飛びつき、ポスリと顔をうずめた。想像以上に直球だったので、ククールは目を丸くする。「…ゼシカ?」「……………ごめんね」それだけをシャツ越しに小さく囁いて、ゼシカは押し黙ってしまった。その一言で、困惑がありありと伝わる。多分、本人にも今の自分の行動が制御できていないんだろう。嬉しいのだが、やはりどうにも慣れなくて、こそばゆい。ククールは複雑な表情を浮かべつつ、(……まいったな)心の中で照れ隠しに近いため息をついた。自分の行動が制御できそうにないのは、こっちもだ。そして色々なものをごまかすために、わざとふざけた調子で声を上げる。「ゼシカ。オレ、そろそろ風呂に入りたいんだけどなぁ」「え」「オレが出るまで、一人で待っててくれる?」意地悪な瞳でのぞきこまれ、ゼシカはククールをちょっぴりにらみ返した。…わかってるくせに、という非難。「離してくれないと、風呂入れねぇ」にっこり笑ってそう言われても、ゼシカはその手を頑固に離さない。怒ったように言い返す。「…イヤよ」「ふーん、ゼシカちゃん大胆。じゃあ手繋いで一緒に入ろうか」「んな…っっ!!」もちろんククールはゼシカをからかい、緊張を和らげるためにそう言ってみたのだが…。咄嗟に怒って顔をあげたゼシカの顔が、真っ赤になり、怒りから、歯を食いしばり、悔しそうに、そして泣きそうに変わるのを目の前で見つめながら、ククールは心底焦る羽目になった。いつもなら間違いなく殴られたり燃やされたりするような発言を、はっきりと否定も拒否もしないまま、相変わらずククールの胸にしがみついてうつむいてしまったゼシカ…。このままククールが沈黙を保ち続ければ、そのうち、きっとおそらく多分、かなりの確率でゼシカはククールのふざけた申し出を受け入れてしまうような気が、ものすごくした。その反応は想定外にもほどがある。あのゼシカに“そんな”決意をさせてしまうほど、彼女は怯えているのだ。ククールは焦りに焦った。そして猛烈に後悔し、すぐさま震える身体をぎゅっと抱きしめた。「ウソ。ごめん。疲れてるし、もう今日は風呂に入る気なんかねぇよ」「…っ、べつに、わたしは」「だから一緒に入るのは、また今度な」「…ぅ…もう…バカ…」ゼシカも、彼の言葉が自分を気遣ったものであることに気づいている。抱きしめるだけじゃなくて、ちゃんと抱きしめられても、それでも不安で胸が震えて。彼に触れていないと、目の前で幻と消えてしまうのではないかという強迫観念が自分でも理解できないほど、胸を締め付ける。羞恥心もなげうって彼にしがみついても、その不安は心のどこかに澱のようにこべりついていて、底が知れない。―――どうしてこんなにも不安なのか。「…ごめん、ね…。……バカみたい…ククールは、…ここに、いるのに」「ああ。…ここにいるよ」ククールのあたたかい言葉が逆にいたたまれない。ゼシカは情けない自分を恥じどうにかしなければと思うのだが、やっぱり掴んだ手を離せない。これ以上ククールを困らせたくないのに、彼をどうにかして繋ぎとめておかないと何をしでかすかわからない自分が、怖かった。…だけどククールの腕は、何もかもをわかってくれているように、優しい。いつまでも抱き合っていられればいいのだろうけど、そうもいかない。ククールはこの数日ほとんど寝ていないという彼女の体調が気になった。「…お前、もう寝ないと。全然寝てないんだろ?」「……」「ゼシカ?」顔をのぞきこむ。途端にゼシカは顔を赤らめ、彼の腕の中でさらに小さくなり、ボソボソと囁くように言った。「……一つだけ、お願い…きいて」この状況での「おねがい」がなんなのかなんて、ククールにわからないはずもない。「あぁ」「……ッ、……今日だけ、だから……。…ぃ、一緒に寝て…おねがい」予想通りの返答にククールは苦笑するしかない。なんて無邪気で、大胆なことだ。ゼシカは己の不甲斐なさに泣きそうになる。「私、私、今日はもう、ほんとにダメ…ごめんなさい…ほんとに…ごめんね、バカみたい…」「いいよ。ただしオレも男だから、何が起こってもいいっていう覚悟はできてるんだよな?」あえてそんな風に言ってくれる予定調和のセリフにも、いつものように威勢よく返せない。「……覚悟なんて、ない…。…でも、それでも」―― 一人で寝るなんて耐えられない。ククールの胸に顔を押し付け、ゼシカは心の底から呟く。「おねがい…今夜だけだから。…明日になったら、ちゃんとするから…」「…ウソだよ。なんにもしない。お前が安心できるなら、明日だってあさってだって一緒に寝るよ」「…うん…」夜着にも着替えず靴だけを放り出して、ククールはまずゼシカをベッドに横たえふとんをかけた。不埒な思考を完全にシャットアウトしてから、自分もその横に寝そべり、ふとんにもぐりこむ。不安そうに見上げてくるゼシカの前髪を枕にひじをついて弄びつつ、優しく微笑む。「どこにも行かないから。…おやすみ」「ククールは…?」「なんかゼシカの寝顔見てからじゃねぇと、眠れそうにない感じ」そんな風に苦笑して見せて、彼女がなるべく早く眠るようにと促す。しかしそれは本心だった。ゼシカは頬を染める。そして躊躇したのち、小さな囁き声で言った。「…もうひとつだけおねがい、きいてくれる?」「…いいよ」「………ホイミ、して」意外な申し出にククールは目を見開いた。ゼシカがそっとククールの手を取り自分のあたたかくやわらかい胸に押しつける。見つめてくる信頼と甘えに満ちた瞳に、思いもかけない言葉が自然とククールの口をついで出た。「………じゃあ、オレのおねがいも、きいてくれる?」「え?…うん」「キスしていい?」今度はゼシカが目を丸くした。そして一気に全身を赤く染めた。胸の上で重ねた手の平から伝わる鼓動が、どんどん速くなっていく。ゼシカは、肯定も否定もできず動揺した。ククールは返事を待たずに、彼女のあごに手をかける。鼻先を触れ合わせて、少しだけ覚悟する時間を与えてから、ゼシカが何かを言いかけた瞬間に口唇をふさいだ。上下の口唇を丸ごとふさいで、何度も何度も角度を変えて、優しく噛んで、舌先で舐める…はじめは戸惑ってククールの身体を押し返していたゼシカの指が、しだいに力を無くしていった。そして口唇を合わせたまま唱えられた回復呪文が、ゼシカの全身を覚えのある心地よいあたたかさで包みこむと、まるで彼の口唇から癒しの力が流れ込んできたような錯覚に陥り、ゼシカは恍惚とした。気づけばなぜか、一筋の涙が頬を伝い落ちていった。「…ゼシカ?」「……やっぱり、ククールだ。……本当に、ククールなんだね…」ゼシカが新たな涙を流しながら艶やかに微笑む。ようやく実感できた、ククールは帰ってきたんだ、と。「もう…きっと大丈夫。不安になんかならない。でも、ね、やっぱり今日だけは…」「…あぁ。このまま手を繋いで一緒に寝て、明日の朝も、繋いだまま一緒に起きような」ゼシカはいつのまにか握られていた手を握り返して、頷く。おいで、と広げられた胸の中におずおずと顔をうずめて、ゼシカは安堵の息をつく。ククールも、ただ優しく交わしただけの口付けですっかり満たされてしまい、この状況にも関わらず、もはやなんの葛藤も欲望もわいてこなかった。ゼシカが、ククールがここにいることをやっと信じられたように、ククールも今頃になってようやく、ゼシカを抱きしめてここに生きていられることを実感し、その事実に心から喜びを感じた。そばにいられるだけでいいと思っていた自分たちは、それが間違いだったのだと気付いた。いつ何があったっておかしくない。ましてや自分たちは世界の敵を討ち取ろうとしている。後悔しないように、いつだって心の内を素直に相手に伝えておかなければいけない。きっと他の人には簡単なそれが、自分たちには一番難しいんだと、わかってはいるけれど。明日になったら、伝えよう。素直に。ただ、素直に。だから、繋いだ手に力を込める。「―――離すなよ?」「―――離さないでね?」2人同時に口にして、驚いて見つめあい、それから小さくクスクスと笑った。明日になったら、伝えよう。二度と後悔しないように。―――あなたが好きだと。 もしも君が死んだら 前編
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みんなで大盛り上がりのトランプ。負けたら罰ゲーム。このあとの買い出しで荷物持ち。珍しく、あのククールが負けた。本人は肩をすくめて、「こういう日もあるさ」と気取っていたけれど。 **「買い出しってお前ら、なんで今日に限って道具も装備も食い物もいっしょくたにすんだよ!」「だってこの街なんでも揃ってて便利だし」「他意はないでげすよ」「ハイ文句言わない。これもよろしくね、荷物持ちさん」両手に大きな紙袋を3つも抱えたククールの非難に、手ブラの3人はおかしそうに笑った。さらにゼシカが差し出した小さめの袋に、ククールはうんざりと眉をひそめる。「いやゼシカさんこれ以上無理だから。…って無理やり乗せるなよ!こら!」「うるさいわね、男なんだからそれくらいしっかり持ちなさいよ。それとも色男は力仕事が苦手だとか言うつもり?」「別に重いなんて言ってねぇだろ、これくらい余裕だっつーの。ただ…」「あら、じゃあまだ買い物しても大丈夫よね?エイト、角のお店に寄ってくれる?見たい洋服があるの」「ちょ、お前なぁ!」いつも通りのやり取りに笑いながら、仲間たちは普段よりも明らかに多めの買い物をした。途中からはゼシカがククールを引き連れてあちこちで買い物をしている間、エイトとヤンガスは喫茶店で休んでいたりしたのだが。日も暮れかけた帰り道。ククールの腕にはさっきよりもさらに幾つかの紙袋がかけられ、抱えた袋も嵩を増していた。少し先の前方に、エイトとヤンガスの後ろ姿がある。ククールとゼシカは夕焼けに照らされる街中を、並んでのんびり歩いていた。「……あ、ククール、ちょっとしゃがんで」ゼシカがそう言ってククールの服の裾を引っ張り、ククールは立ち止まってゼシカの方に重心を傾けた。彼が腕に抱えた紙袋のうちの一つを、ゼシカは背伸びしながらのぞき込み、手を突っ込む。袋の中から探し出したのは、開け口をきゅっとリボンでしばってある可愛らしい包み。「なんだそれ」「お菓子の詰め合わせ」嬉しそうなゼシカの返事に、うぇ、とククールが不満の呻きをもらす。「お前…人に荷物持たせるのにそんないらねーもんまで買ってんなよ…」「こんなの全然たいした重さじゃないでしょ。それにいらなくないもん」「いらねーよ。そういうのを無駄買いって言うの」「いるの。なによ、じゃあククールにはあげない」「あーごめんなさいすみません、やっぱりいります無駄じゃないです甘いもの」その調子の良さに呆れながらも、パクリとお菓子を食べながらゼシカが尋ねる。「何がいいの?キャンディ?クッキー?チョコ?」「ん~チョコ」「はい」少ししゃがんで首を突き出すククールの口の中に、ゼシカはチョコレートを入れてあげる。もぐもぐと咀嚼して、は~、と息。「うめ。やっぱこんな大荷物持たされて疲れてたんだなオレ。かわいそう」「勝負に負けた人が何言ったってはじまらないわよ」そっけないことを言いながらもゼシカは楽しげに笑って、大きなクッキーを半分に割り、ククールの口に突っ込んだ。そしてもう半分を自分で食べる。「おいしー」幸せそうに両頬を抑えるゼシカを見て、ククールも微笑んでしまう。「そりゃよかった」「次は何がいい?」「オレはもういいや。ゼシカ好きなだけ食べろよ」「えっ、これだけでいいの?もういらないの?」「甘いものは今ので十分」「男の人って信じらんない…」「常に甘いもん持ち歩いてる女の子の方がオレからするとよくわかんねぇけどなぁ…」ゼシカのウェストポーチの中に、常にチョコや飴が入っていることをククールは知っている。ぶつぶつと何か言いながらキャンディを口に入れるゼシカに、「甘いものはいいけど、なんかしょっぱいもの、買ってない?」「しょっぱい?フライドポテトは?ヤンガスが買ってたと思うけど」「なんでもいい」再び袋を探って目的のものを探し出すと、ゼシカはポテトの箱を持って、その一本をククールの口に運んだ。ゼシカが口元に近付けるたびに、あーと口を開いてそれを食べるククール。「飲み物ある?」「お水なら」荷物を両手いっぱいに抱えた彼に、食べ物を食べさせてあげる彼女。その光景が道行く人々の目にどう映っているかなんて、本人たちにはどうでもいいことだ。水筒のコップに水を注いで飲ませ、ポテトと言われればそれを食べさせる。しばらくそれを繰り返し、ゼシカは はた、と気付く。「…なんだかアンタ、いいご身分になってない?」「仕方ねぇだろ、両手ふさがってんだから」それはそうだけど、とゼシカは口唇をとがらす。ククールの罰ゲームなのに、これじゃまるで。「…私がククールのために奉仕してるみたいじゃない」ゼシカがふてくされて睨むと、ククールは最高の笑みでにっこり笑った。「わたくしはお嬢様の大切なお荷物をお預かりしている身ですので、それは大きな誤解というものです」「だったら自分で食べなさいよっ」「こんだけ荷物持たせといてどの口が言うかなーそんなこと」うぐう、と言葉を詰まらせるゼシカが可愛くて、ククールは笑いが抑えきれない。「あーうまかった。ごっそさん」「まったく夕飯前なのにあんなに食べちゃって…。お腹ふくれない?」「全然?むしろデザートとか欲しい気分」「…ほんと信じらんない」「なぁ、さっきのお菓子くれよ」「ダーメ。これからご飯食べるんだから、我慢しなさい」「菓子の一つや二つで腹なんかふくれねぇって」「ダメ」問答を続けるが、こうなった時のゼシカは断固としてククールのわがままを通さない。そこらへんの「しつけ」に関しては厳しいゼシカだが、いい年した大人の彼が甘いものをねだってブツクサと文句を言う様がなんだか無性におかしくて、思わず口元がゆるむ。「…ったくよー。ゼシカって時々、変に意固地っつーか態度デカイっつーか…」「はいはい。そんなに言うなら一つだけ、あげてもいいわよ」わざとらしくため息をついてゼシカが譲歩する。「え、マジで?珍しい」「そうよ。特別なんだから、ちゃんと味わって食べなさい」ゼシカが包みの中から取り出したお菓子の一つを手に取る。ククールは愛想よく返事をしながら、今まで通り、ゼシカの方に身をかがめた。抱えた荷物がこぼれそうだ。「もっと、しゃがんで」「もっとって、これ以上は…わっ」いきなり強引にマントの裾を引っ張られ、ククールの体が思い切りゼシカの方にかたむく。荷物が落ちる―――、咄嗟にそう考えたのと、同時。ククールの頬に、ゼシカの口唇がふわりと触れた。ドサドサドサッ。大きな荷物が音を立てて地面に落ちる間、ククールは石のように硬直していた。そして、素早く離れたゼシカが数歩先まで走って、ふいに振り返り、「――――間食もほどほどにしなさいよね!」そう叫んだのを聞いた時も、まだ硬直していた。彼女の姿が先を歩くエイト達に追いつき、さらにその道の向こうに姿を消してから。ようやくククールは口元を手で覆い、ゆっくりと天を仰いだ。「……………………間食なんかじゃねぇよ」地面に転がる荷物の存在に気付き、それを拾うため怠惰にしゃがみこむ。上の空でそれらを拾っていると、さっきゼシカが手に持っていたチョコレートが、まぎれて落ちていた。それを拾って、包みを開いて、口に入れる。甘い、とククールは呟いて、小さく笑った。そっと頬を撫でながら。それはチョコレートより、キャンディより、何よりも甘い。この世で一番甘いもの。2人の頬が赤く見えるのは、夕焼けのせいだけじゃ、きっとない。 **
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次の目的地に向かうその道中で、ゼシカの小さな異変に気付いたのはククールだった。 「ゼシカ、足どうした?」 ククールはゼシカの腕を取り、その顔を覗き込んだ。 「どうもしてないけど?」 ゼシカは嘘をついた。本当は左の足首がキリキリと痛む。 少し前に木の根につまづいた時に捻ってしまったのだ。 出発したばかりであったし、大した事じゃないと思い我慢して歩いた。歩いているうちに痛みが増してきた。痛めた部分が熱をもって脈打つのを感じた。それでも更に我慢した。 ゼシカは普段から、泣き言めいた事を言うのを必要以上に嫌っていた。女性である事に気を使われたくはなかった。 上手く自然に歩いていたつもりなのにどうしてバレたんだろう、とゼシカは内心思った。 「……。」 ククールは面白くない、といった顔で黙った。そして不意に掴んでいたゼシカの腕をそのまま自分の方にちょいと引いた。ゼシカは体勢を崩す。すかさずゼシカの膝の下に自分の右腕をくぐらせ、ふわりと身体ごと両腕で抱き上げた。 「何すんのよ!下ろしてよ!」 「ヤだ。」 ククールはゼシカの喚きたてる声を気にせず、そのまま歩きだす。 ゼシカは自力でこの状況から脱出しようと手足をじたばたさせるが、それが状況を更に不利にする。足首に響くような痛みが走った。 「い…った…。」 「それみろ。頑張り屋サンなのも結構だけど、人の好意に甘える事もそろそろ覚えないとな。可愛くないぜ?」 「可愛くなくて結構です。」 ゼシカはプイと横を向いた。それからもう一度ククールの方に顔を向け、ちょっとだけ憎らしげに上目遣いで見た。何故か頬を赤らめていた。その様子を見てククールは笑みを零した。 「お、やっぱり可愛いカモ…。」 「~~~~~!」 ククールの減らない口にやり返す術を無くしたゼシカは再び暴れだす。ククールは慌ててポカポカと胸や顔や頭を叩いてくるゼシカを落とさないように押さえ込んだ。 「次の町はもうすぐだ。このまま抱いてってやる。」とククールが言った。 「フン、だ。重いからあんたの腕なんか折れちゃうわよ?」とゼシカが返す。 「あ~、ほんと~に重~。」とククールが大袈裟に空を仰ぐ。 「ムカつく。」と更にゼシカがふてる。 「うそうそ。」ククールは微笑む。 『---一生やってろ!!!!』 エイトとヤンガスとトロデとミーティアは、心の中で一斉に言った。 仲良く楽しそうにじゃれている(様にしか見えない)二人を努めて無視して馬車は進む。 ホイミしろよ…とつっこむ気にもならないエイト達であった。
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ククールは聖地ゴルドの空を見上げていた。 断崖ギリギリの足下には底も見えないような深く暗い大穴が口を開いている。 破壊しつくされた町は夜気に覆われ、遠くから人々の声が聞こえる。おそらく今後の復興について、話し合っているのだろう。 ククールの周辺に人影はない―――たったひとり、数歩後ろに控えたゼシカを除いては。 しばらく彼をひとりにしておこう、とエイトたちは町の外に出ていった。 ゼシカもそれに従うべきだとは思ったが、その場を離れられなかった。そうして、何時間もふたり立ち尽くしていた。 「アイツさぁ」 不意にククールが声に出した。ゼシカの方を振り返りもせずに続ける。 「アイツ、本当に腹黒いし、イヤミだし、ムカつくし、手に負えない悪党なんだけどさ、すげー優しかったんだ最初は。」 「うん。」 強風が砂塵を巻き起こし、ゼシカの頬を叩いたが、構わずに彼の背中を見る。 「思っちまうんだよな。オレさえアイツの前に姿を現わさなければ、アイツ、人に尊敬される立派な聖職者になってたんじゃないかな。」 「わかんないよ。もしも、の話なんて。」 「アイツ・・・指輪投げてよこした。」 「そだね」 「どういう意味なのか考えてた。」 「わからないの?バカね。」 ククールはゼシカを見た。 「『無事でいろよ』って事よ。」 ゼシカは笑みを浮かべている。 「似てるよね。素直じゃないにも程があるわよ。」 ククールは急に肌寒さを覚えた。救う言葉。癒す言葉。 ―――ゼシカは本当にすごい女だ。 ゼシカに歩みを寄せる。 「抱きしめていい?」 ゼシカは何も言わずククールの胸にコツンと頭をあてた。 ククールはその体をそっと抱きよせた。 ゼシカは両手を回し、強く抱きかえした。 抱きしめてくれ、とゼシカにはそう聞こえたから。 ―――寒い夜だね。今日は。誰かの温もりが欲しくなる。 ふいにククールがくつくつと笑い、体を離した。 「ダメだ、刺激が強すぎる」 「・・・?」 ククールは、ちょいちょいと自分の胸を指差した。 「変な気持ちになっちまう」 「バッカ・・・!!アンタって人はこんな時まで・・・。」 赤面して慌てふためくゼシカが拳骨を振り上げる。 ククールはその手を軽く受けとめ、面を寄せて囁いた。 「行こう。ラプソーンが待ってる。」 いつもどおりの不遜な目があった。 ゼシカは不敵に笑い返し、二人は歩き出した。
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暫く呆然と同じ場所に立ち竦んでいたククールは、 泣きそうに歪む顔を伏せそのまま小さな声で一つの魔法を唱えた。 「ルーラ」 短く呪文が唱えられた瞬間、ククールのいた周囲に風が巻き起こり、 そのまま風に運ばれるようにしてククールの姿が空に消える。 そこから数メートルも離れていない位置で、 突然起きた風にゼシカは小さく「きゃ」と悲鳴をあげて目を閉じ、 エイトは反射的に風の起こった方を振り返った。 (アレは…ククール?!) ゼシカを庇うように立ち上がりながらも、 一筋の弧を描いて空の彼方へと消える姿を見て、驚きに目を見開く。 ククールがゼシカを想う気持ちにも、ゼシカがククールを想う気持ちにも、 それとなくエイトは気づいていた。 二人がその想い故に擦れ違っていることも。 (もしかして今の会話を聞いていたとしたら… どうしよう、ククールは、何処に行くつもりなんだろう) 「エイト?」 自分に背を向けるようにして立ったまま、 腕を組んで何事か考え込んでいるエイトを不審に思い、 ゼシカは声を掛けるも、深く考え込んでしまったエイトの耳には届かない。 (いちかばちか…行ってみるしか) ゼシカの声に気づかないまま、エイトは何かを決意した眼差しで空を見上げ、 そうして先程ククールが唱えたものと同じ呪文を大きな声で口にした。 ふわり、と地面に着地する手前で身体が一瞬浮き上がり、 トンと軽快な音を立てて目的の場所、ドニの町へとエイトは降り立った。 足が地面に着き切るのを待たずにその足を前方へ向けて走り出し、 町の入口を猛スピードで潜り抜ける。 そして目前にあった大きな酒場へと、 勢いを止めずに飛び込むようにして足を踏み入れたと同時に叫ぶ。 「ククールはいますか!?」 酒場では活動時間外の真っ昼間に、 突然大きな声をあげて入って来た青年に、 中にいた数人の人が振り返って入口を見る。 その視線の中に、今しが金髪のバニーガールを引き連れ、 裏口から出ようとしている赤い制服を男を即座に見つけると、 エイトは即座に駆け寄った。 驚きに見開かれた蒼い瞳が、ふい、とバツが悪そうに背けられる。 行こうぜ、とククールが隣にいるバニーガールの子の 腰を引き寄せて言いかけた声を遮って、エイトが口を開く。 「やっぱりココにいたんだ」 「……わざわざ追いかけて来たのか?悪趣味だな」 傍にいたバニーガールを腕を伸ばす仕草で、 先に外に出したあと追いかけて来た人物を振り返り、 馬鹿にしたような表情を浮かべてククールが返す。 一瞬、言葉に詰まりエイトは俯くも、首を横に振って見せた。 「…君の行動を咎めるつもりで来たんじゃないんだ。 僕は、もし今の旅が嫌になったら逃げても良いと思ってる。 いや、君にも他のみんなにもその権利はあるんだ」 真摯な眼差しで、一言一句確かめるように言い放つエイトから視線を外して、 ククールは自嘲気味な笑いを零す。 「だったら放って置いてくれよ。…そのうち、気が向いたら戻るからさ」 「それは構わないよ。…ただ、ゼシカが心配するから、 彼女には一言何か言ってあげて欲しい」 「そりゃあ悪かったな。でもオレなんかより、 愛するお前から伝言受けた方がゼシカは喜ぶぜ?」 一瞬躊躇うように言葉を切った後、 どことなく遠慮がちに言葉を紡ぐエイトが全部言い終わらぬ内に、 ククールが吐き捨てるように言い、そのまま背中を向けて一歩踏み出す。 「…やっぱり、ククールは誤解してるよ」 エイトはその後ろ姿を追いかけようとはせず、 僅かに首を傾げてポツリと呟くように零す。 「…何が?」 いかにも迷惑そうな表情を作りながらも、 エイトの台詞が気にかかった様子で、ククールが今一度後ろを振り返った。 「…こんなことを僕の口から言いたくはなかった。 だから黙ってた…けど、ゼシカが好きなのは僕じゃない」 エイトは、キュッと何かを堪えるように胸の上で拳を握り締めると、 普段と変わらぬ淡淡とした声音で告げた。 顔だけを振り返らせたククールの冷めた表情に、 一瞬僅かな動揺が走ったあと、おどけた仕草で肩を竦めて見せた。 「…冗談。さっき不思議な泉でゼシカから告白されたばっかりだろう? それとも、何、オレをからかってんの?」 「僕が君をからかったり、 君が敢えて傷つくような冗談を言う人だと思ってるの?」 作り笑いのような表情を浮かべ、 どこまでも軽く受け流そうとするククールの態度に、 エイトの表情と声に僅かな怒りが篭もる。 ククールは、虚を突かれたように目を薄く見開くと、 僅かに体勢を変えてエイトと向き直り目を伏せる。 暫しの沈黙。先に口を開いたのはククールだった。 「……いや、そんなことは、思ってない…悪い」 心底申し訳なさそうな表情を浮かべ、 口許を押さえて掠れた声でククールが謝罪する。 エイトはそれに首を横に振って答えて、一拍置いてから口を開く。 「…それより、ゼシカとちゃんと向き合って、話であげて。 君のことを放っておく訳にいかなくて、一人で置いて来ちゃったんだ。お願い」 少し物悲しいような、どことなく切なそうにも見えるエイトの表情と、 最後に付け足された短い一言に、 ククールは困ったように首を傾げた後、肩を竦めた。 「……エイトにそう言われると、オレ、何も言い返せなくなるんだけど。 オレは、確かに、ゼシカの口からエイトが好きだって、聞いたぜ?」 「きっと、タイミング悪かっただけだよ」 困惑気味に言葉を紡ぐククールに、エイトは苦笑して答える。 疑惑をきっぱり否定するように言い切られてしまい、 ククールは降参したように両手を挙げた。 直後、開け放たれたままの扉の隙間から、 ひょっこりと先程のバニーガールが顔を覗かせた。 「話は終わったの?」 一度エイトをチラリと見たあと、 ククールの様子を窺うようにして尋ねる。 「いや、その話なんだが…ちょっと用事が出来たみたいでさ、」 気まずそうに髪を掻きあげ、 悪いんだけど…と続けようとしたククールの言葉を遮るように、 立てた人差し指をチッチッと横に揺らす。 「悪いんだけど、全部聞かせて貰っちゃった。 酒場にいた他の人もみ~んな、 ククールたちの話に釘付けだったみたいよ? 女の子が店内を見渡すようにして言ったその言葉に反応するように、 酒場のあちこちからゴホン、とかウン!などと言った咳払いの声や、 止めていた作業を再開するような音が響いた。 エイトはその様子を見て、困ったように頬を掻き、 ククールは呆れたように嘆息した。 「大事な女の子がいるんでしょ?ククールにも、そんな時期が来たのね。 この借りは次来てくれたときに返してくれればいいわよ。はいどうぞ」 何故か楽しそうにクスクスと笑いながら、 バニーガールの娘は外に出るのを促すように扉を開けてみせる。 ククールはチラリとエイトを見た後、 「じゃあ悪いけど、行くよ」と誰にでも無く言葉を返して、 裏口から外へ出て数歩歩いた位置で再びルーラを唱えた。 エイトは安心し切った微笑みをたたえて、その後ろ姿を見送った。 un titled1 un titled2 un titled4
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***マルチェロの策略によって煉獄島に投獄され、そこからようやく脱出できた時、世界は一変していた。いや…半ば予想通りだったのか。新法王就任式までは、なんとか数日の猶予があった。一か月間も劣悪な環境に耐え、みな弱り体力が著しく低下していた。こんな状態で乗り込んでいっても結果は見えている。話し合いの末、ギリギリまで体力を回復し、万全の状態で戦いに挑もうということになった。ここ数日のククールは、誰も話しかけられないほど荒れていた。体力回復など待たなくても今すぐ戦える、悠長なこと言ってないで早くアイツを倒すんだ、と。ククールは一刻も早く、この世でただ一人の肉親の暴挙を止めたかった。だけどやはり現実的にそれは無茶な話で、結局、彼の意見は受け入れられず。―――ドニ。ククールはこのところ毎晩、酒場で飲んでいる。馴染みの顔に囲まれて、わざと、完全に悪酔いしている。仲間たちはそれを知りつつ口出しはできずにいたが、ある日、今日もドニに向かおうとするククールに、見かねたゼシカがついに声をかけた。「私も連れて行って」と。その頃、ククールとゼシカは何度か体を重ねている、恋人同士といってもいい関係になっていた。飲み始めの頃はククールを諌めながら酒の量を制御させていたが、元々機嫌が最悪な彼とは当たり前のように何度も口論になり、酔いも手伝ってまともな会話はできなかった。それでもゼシカは決してキレず、なんとか最後までククールを見守る気でいたが、ククールに「酒がマズくなるから帰れよ」と言われた瞬間、何かをあきらめてしまった。まだ宵の口にもなっていなかったのに、ゼシカは席を立ち、一度宿に戻る。それでもキメラの翼で仲間たちの元に帰る気持ちはなかった。それから何時間か経って、深夜になる前に、燃やしてでも宿に連れ帰る気で彼を迎えに行ったが。――ゼシカは結局、また一人で帰ってきた。大きな息をつきながら扉を閉め、ベッドに倒れるようにうつ伏せる。頭の中はぐちゃぐちゃで、どうしたらいいのか答えの出ないまま、逃避するように瞼が降りる。 次にゼシカが目を開けたのは、身体をまさぐる不埒な手の感触に気づいたからだった。ぎょっとして身を起こそうとすると、身体を仰向けにされ、手首をシーツに押しつけられる。「……ククール」うわずった声には驚きと戸惑いが入り混じり、そして咎める視線。ククールは見下ろし、すぐにかまわず彼女の服に手をかけた。「ちょっと…!やめて」ゼシカはその手を強く払いのけた。見下ろしてくる目は正気とは言い難い。…かなり、酔っている。「やめなさいよ…酔ってるくせに」「酔ってねぇ」「ウソつかないで。酔っ払いとこんなことする気、ないわ」抵抗しようと思えばどうにでもしようがある。殴ってもいいし蹴り上げてもいいし、いざとなれば魔法だ。だけどその前に、ゼシカは言葉でククールを説得にかかった。「…ククール。こんなことでごまかさないで、ちゃんと話しましょう」「……」「したいなら…あとで、………する、から。今は」「うるさい」ククールの瞳に瞬間的な怒りがよぎったのを感じたと同時に、口唇を口唇でふさがれた。無遠慮にゼシカの服の中に侵入してきた大きな手の平に、素肌を撫でられてゾクリと鳥肌が立つ。「…んう…ッ―――ッイヤ!なんなのよいきなり…ッ」今度こそ暴れる。このまま力づくで事に及ぶつもりなのだ。今までのククールは、ゼシカが本気で抵抗の意思を見せたら、それ以上は決して強要しなかった。酔っているからなのか、それとも他に理由があるのか。今のククールはゼシカの抵抗などおかまいなしだ。攻防は、ほんの数分で片が付いてしまう。片手でまとめた両手首を渾身の力で握られ、太ももを挟むように上からのしかかれば、上半身も下半身も、ゼシカにはどうもがいてもその拘束から逃れることはできなかった。本気を出されたら、こんなにも抵抗できなくなるのかと、あまりの力の差にゼシカは愕然とする。ギリギリと手首にかけられる力が痛い。ゼシカが痛がっているのをわかっているはずなのに、ククールはそれを緩めようとはしない。「…つ…っ…ククール、やめて」「抱かせろよ」「いや」「じゃあ、犯す」信じられない一言にゼシカは目を見張る。ククールは空いている片手で上着をずり上げ、ブラジャーの上から胸を乱暴に揉んだ。「やめてよバカッ!!や―――んぅうっ…!」キスで叫びを封じられる。抱かれるのではなく、犯される。考えただけで身の毛がよだつ。ゼシカは心の中で絶望に近い嘆きを叫んだ。 でも、ともう一人の自分が冷静に、乱暴をするククールを見つめている。でも、彼はきっと本当はこんなことがしたいんじゃない。それがわかるから、苦しい。押し隠された彼の本心を考えるだけで、切ない。―――誰だって、弱いから。どうしようもない時だってある。こんな方法でしか思いを発散させられない時だって。怒りや苛立ちや悲しみを、誰かにぶつけなければ壊れてしまう時だって、あるのだ。ただの逃避でしかないとしても、その相手に私を選んでくれただけでもいい、と自分に言い聞かせる。ククールのそれを受け止めてあげるのが私の役目なら。理解してあげるのが私の役目なら。そう。仕方ない…そんな風に、彼を…赦す。受け入れる。ゼシカは抗うのをやめた。全身から力を抜き、されるがままに白い素肌を晒した。ゼシカの変化を感じ取り、ククールは声を抑えるためだけの口付けをやめ、口唇をそのまま耳元へ、首筋へ、鎖骨へ、胸へと、すべらせていった。歯型とキスマークを何度も付けられ、ゼシカは神経質な痛みに眉をひそめる。いつもだったらこんな場所に痕はつけない。ゼシカが本気で怒るのを知っているからだ。つまりククールも、ゼシカが彼を「許容」したのをわかっているのだ。「…ククール…」ゼシカは彼の頭を愛しむように抱いた。もう完全に、ゼシカはククールにその身の全てを捧げる気持ちになっていた。―――ふいに鼻孔をつく匂いに、まどろみかけたゼシカの意識がピクリと反応する。不快な、どうしても気になってしまう、その匂い。お酒の匂いよりもよっぽど強烈にゼシカの嗅覚を刺激する。気にしないフリをしようと思った。気付かないフリをできればよかった。けれど、視線の先には、シャツからはだけた彼の胸元が見えて…「―――イヤ」最初とはうってかわって従順にククールの愛撫を受けていたゼシカが、唐突に体を捻った。ククールは気にもせず、再び強引に先を進めようとするが、ゼシカは再び抵抗した。「イヤ…やっぱり…いや」「…なんだよ、今更」「……シャワーくらい浴びてきて」「うるせぇな」黙らせるためだけに、ククールの指先がスカートをまくり上げゼシカの下着に手をかける。咄嗟に、ゼシカの平手がククールの頬に飛んだ。逸らされた顔をゆっくりと正面に向けたククールの冷徹な視線に、ゼシカは恐怖を感じた。…今のククールは、ただの「男」でしかなかった。愛情よりも、欲望だけを優先する。目の前にいる女を、思いのままにすることしか考えていなかった。 「ちょっ――イヤ…!!!!」抵抗など簡単にいなして、下着の上から割れ目を深くなぞる。「なんだよバカみたいにイヤイヤって、ハジメテでもねぇくせに」わざと羞恥を煽ると、案の定ゼシカは顔を真っ赤にして声を詰まらせた。触れたゼシカのそこは、湿り気がある程度で、まだ濡れているというほどではない。しかしククールは耳元で低く笑いながら、揶揄する。「…もう濡れてるぜ?もしかして抱かれるより犯される方が、お前、好み?」―――――――!!!!!!!いきなり頬をかすめた鋭い刃の正体が氷だとわかり、さすがにククールは押し黙った。ゼシカが瞳に涙をあふれさせ、それをこらえながら睨み上げてくる。その表情は、それはそれで色っぽかった。酔いはまだちっとも覚めていない。なんだか、ヤケになっている。何もかもがバカらしい。めんどくさいめんどくさい。全部全部バカみたいだ。くそ、くそ、くそ…ゼシカ、お前もオレを認めないのか?お前すらオレを受け入れてくれないのか?オレのこと好きなんだろ?ならヤらせろよ。アイツのこと忘れさせてくれよ。そんな言葉が渦を巻いて、意味を伴わずククールの脳内を飛び回る。体の下でまるで処女のように震えている女の、見上げてくる視線が無性に癪に障った。ククールは薄ら笑う。それにゼシカは無意識に怯える。「………………そんなに、嫌かよ。オレとヤるのは」「……アンタがイヤなんじゃ…ない」「そうか?お前が嫌がらなかったことなんか、今まで一度もねぇだろ」「それは…」単なる照れ隠しだ。ククールだってそれはわかっているはず。ゼシカが何も言えないでいると、ククールが はっ、と鼻で笑った。「…そうだよな、お前オレしか男知らねぇもんな。だからわかんねぇんだよ、オレの良さが」「………なによ、それ」「オレはよくわかるぜ?他の女と比べてお前とのセックスがどれだけ相性いいのか。どれだけ度を超えてキモチイイのかがな」ゼシカがカッと全身を染めた。それに気を良くしたククールが、ニヤリと笑う。「――――お前も、一回オレ以外の男と寝てみたら? そしたらわかるだろ、オレとのセックスの良さが」 そう言ってから、ククールはハッとした。ゼシカの表情を見て、気付く。――――――言ってはいけないことを言ったと。ゼシカは蒼白な、しかし無表情で、ククールをじっと見上げていた。ククールは視線を逸らし、小さく舌打ちした。何も言い訳が浮かばない。最悪だ。腹が立つ、ゼシカに?違う、自分にだ。何か言えよ。そしたら言い返してやるから。気まずい空気の中に、ゼシカのかすれた声が聞こえた。「……。…………本気で言ってるの?」その声が想像よりもあまりに感情がなくて、彼女の真意がわからずククールは声を詰まらせる。視線を合わせるのすら怖くて彼女にまたがったまま黙っていると、ゼシカが無言でククールの体を押しのけて起き上がり、静かにベッドを降りた。服装の乱れを直すその後ろ姿に、ククールは触れることも、声をかけることもできないでいた。このままでいれば、ゼシカが離れていくことはわかっているのに、体が石のように固まって動かない。のどが張り付いて声が出ない。立ちつくしたゼシカの後ろ姿はいつものようにしゃんと伸びて、後ろの人物に確固たる離別を決意しているように感じられた。その華奢な背中が、今にも「さよなら」と告げそうな幻想に襲われて、ククールは背筋を凍らせる。咄嗟にベッドを飛び降りその腕を力任せに掴み、振り向かせた。「―――――あのなぁ!!本気なわけ…っ」しかし掴んだ途端それを力の限りに振り離され、ククールは弁解すら最後まで言えなかった。あらゆる負の感情がないまぜになり、カッと頭に血が昇りまともな判断ができなくなる。ククールは自分が何をしたかったのかを忘れ、衝動的に彼女を壁に押し付け、強引に口唇をふさいだ。「―――ッッ!!!」ゼシカは貪られるような口付けを屈辱にすら感じ、悔しさを必死で耐えた。堪え切れずあふれた涙をボロボロこぼしながらでは、抗う指に力は入らない。そう、それは悔し涙だった。薄目を開けて、ぼやける視界の中で2人の目が合った時、ゼシカは全てを拒絶した。ガリ、と嫌な音が脳内に響く。2人の口の中で血の味がする。ゆるんだ拘束と同時にゼシカはククールを思い切り突き飛ばし、部屋を飛び出した。 かなりの間、言葉も出ず呆然としていた。しかし自分の両手を見つめ、失ったぬくもりを実感するにつれ、残された自分のみじめさに気付く。「―――――クソ…ッッ!!!ああぁあッッ!!!クソ…!!!」床を踏み鳴らして、ククールは吼えた。何度も何度も叫んで、このやり場のない苛立ちを発散させようと。だけどどうにもならない。何も変わらない。アイツは帰ってこない。……あんな風に泣かせるつもりはなかった。怒鳴って、殴って、燃やしてくれたならどんなにラクだったろう。怒りながら泣かれたなら、こんなに胸がつぶれるような思いはしなかった。―――キスしているのに。それなのになぜ、あんな目をするんだよ。あんな…諦めきった…絶望したような目を。酔っ払いの相手なんか適当にしてくれればよかったんだ。大人しく抱かれてくれれば、オレだってこんな…「…………クソ…………」ククールは顔を覆ってベッドに座り込んだ。酔いなのか、なんなのか、思考がぐちゃぐちゃで吐きそうだ。後悔で、吐きそうだ…追いかけなくてはならないとわかっている。だけど怖い。今のオレに何を言う権利があるだろう?もしかしてこれで「終わり」なんじゃないのか。少なくともアイツの中で、オレとの関係はあの瞬間に終わったんじゃないのか?あんな目をしていた。傷つけたんだ。ひどく傷つけた…自分が傷ついていたから、一番大事な奴をそれ以上に傷つけて、同じ場所に堕としたかったんだ。―――最悪だ。 *** 傷つけた・後編
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嫌な夢を、見た。 ここ……煉獄島に送り込まれて間もない頃に。 黒犬を倒した後の、あまりに理不尽なこの展開。 法皇の館からここまでの一連の筋書きを作ったのは、他ならぬ兄。 極度の混乱によって暫くの間は眠ることすらできず、半ば倒れるような状態で眠りに陥った時の夢だった。 緊張の糸が切れたように傍らで倒れてしまった法皇様。 悦に入った表情で一瞥をよこした兄。 混乱の中で放置してきてしまった、あの杖。 それらの衝撃的な記憶がもたらした悪夢だとばかり思っていた。 あまりに凄惨な図だったために、口に出すこと自体が憚られた。 そんな夢を見てしまったことで底なしの罪悪感に苛まれていた。 (杖を聖地に近づけてはならぬ……。決して、聖地には……!!) ククールの夢に現れ悲痛な叫びを残した法皇の胸には、ぽっかりと穴が空いていたのだ。 地上の大ニュースが、日々繰り返される看守交代の折に煉獄島へともたらされた。 法皇が亡くなったと看守は言った。しかもひと月ほど前のことだと言う。 そのニュースに牢内も一時騒然となり、それが収まった頃に囚人の一人である修道僧が、震えながら小さな声で絞り出すように語った。 「そう。あれはちょうどひと月前。法皇様が夢枕に立ち、私にこう告げたのです。杖を聖地に近づけてはならぬ……と。胸に何かを突き刺されたような、大きな穴の空いた、おいたわしいお姿でした」 ガチャッ!!と、派手な金属音が牢内に響いた。 床に腰を下ろしていたククールが修道僧の側に向き直った際に、その勢いのあまりに装備していた剣がたてた音だった。 ククールの顔は驚愕で歪み、その瞳は修道僧を凝視していた。 その様子を見て、近くにいた全員がククールに注目する。 「あんた……法皇様に会ったことがあるのか?杖って何だ!?」 「い、いえ!お目にかかったことはありませんし、杖も分かりません」 尋常ならざるククールの迫力に、修道僧はたじろぎなからも言葉を続けた。 「ですが不思議なことに、夢に出た方が法皇様だということだけは確信が持てたのです」 ククールと他の面々の視線が、今度は修道僧に向けられる。 「そして、法皇様をあのようなお姿で夢に見てしまった自分は何と罰当たりなのだろうと思い、あの日以来懺悔をしておりました」 そう言うと修道僧は俯き、十字を切ってから祈りを捧げ始めた。 ククールは修道僧の姿を凝視したまま、しばらくの間凍りついたように動かなかった。 そしてようやく開かれたその口から出された言葉は、それを耳にした者全員を凍りつかせることとなる。 「オレも、あんたと同じ夢を見た……」 静まり返った中、ククールは沈痛な面持ちで語り始めた。 「多分、法皇様はその姿で亡くなったんだ。そして最後の力で世界中の僧侶の心に呼び掛けたんだろう」 全員が固唾を呑んでククールの話に耳を傾ける。 「……あの杖のことを。しっかし、滑稽なもんだよな」 ククールは立ち上がり、かぶりを振って苦笑した。 傍目には苦笑に映るククールの表情を見た仲間たちは愕然とする。 いつもの彼のそれとは違う、その奥に見え隠れするやり場のない怒りや絶望……。 それらが綯い交ぜになった、凄絶としか言いようのないものを垣間見てしまったからだ。 「あのじいさまが法皇様でなけりゃ……。お告げを受け取ったのが僧侶でなけりゃ……。最後の最後で、法皇様が生涯を捧げて教えを説いた信仰ってやつが邪魔しやがったのさ……」 寄せられる視線から逃れるようにククールは皆に背を向けると、その胸中に溜まっていたものを一気に吐き出した。 「たった今真実を知らされるまで!誰もお告げだと気付こうともしなかったんだ!あんたも!オレも!!」 そして振り上げた左手の拳を壁に打ちつけた。何度も、何度も。 「何が懺悔だ!?笑わせんじゃねえよ!それで悪戯にひと月も無駄に……ちくしょう……!!」 「もういいから!やめてよっ!!」 壁に打ちつけ続けられるククールの左手を、ゼシカは駆け寄って後ろから両手で掴み制止しようとした。 しかしククールの手加減無しの腕力を華奢なゼシカが受け止められるはずもなく、最後の一回はゼシカの手もろとも壁に打ちつけられることとなってしまった。 「痛…っ」 自らの左腕にしがみついたまま眉間に皺を寄せるゼシカを見て、ククールはようやく恐慌から抜け出す。 「…ゼシカ……」 「ククールもこの人も悪くないわ。悪くない……」 ククールの左腕から力が抜けてゆくのを感じたゼシカは、拳を労るように両手で包み込んでから話を続けた。 「誰だってそんな夢を見たら胸の内に留めるわよ。だから、そんなに自分を責めないで」 「…………」 しばらく時間をおいた後、ゼシカは未だ呆然と立ち尽くすククールの顔を覗き込む。 「ね?」 ゼシカと目が合ってしまったククールはバツが悪そうに目を逸らし、今の騒動でゼシカの手にできてしまった擦り傷に、泳がせた視線を落とした。 「……すまない」 ククールはぽつりと一言呟いてから、半ば条件反射的にゼシカの手の傷にホイミを施す。 「ありがとう……」 ゼシカはククールが平静を取り戻しつつあることを認め、微笑みを返した。 再び床に腰を下ろしたククールは、微動だにせず自らの足許に視線を落としていた。 ゼシカはそのすぐ隣に腰を下ろし、静かにククールを見守っていた。 そんな状態でどのくらいの時間が経っただろうか。 ククールがぽつりと呟いた。 「……だらしねぇなあ、あいつ」 「ん?」 ゼシカは小さく一言だけを返した。 ちゃんと聞いているからね、というサインだった。 「マルチェロの奴、まんまと暗黒神に乗っ取られやがって。ざまぁねぇや。…………ほんと…頭くるね。マルチェロも、ラプソーンもさ。ほんとに……」 ククールはゆっくりと一言一言を噛み締めるように呟いた。 ゼシカはその言葉を聞いて、改めてククールの抱える苦悩の大きさを思い知らされる。 そうだった。 自分たちは杖……ラプソーンの動向だけを案じていたが、ククールにはそれに加えてマルチェロのこともあったのだ。 そして法皇様の死も、自分たちとは違った辛さがあるのだろう。法皇様の死……。 (あれ……?) ゼシカはひとつの疑問に突き当たった。 「ねえ、あれからひと月過ぎてるのに、大ニュースが法皇様の訃報だけって変じゃない?」 「……何で?」 「法皇様が亡くなったってことは、最後の封印を継ぐ賢者の末裔も死んじゃったわけで、それで杖の封印は全て解けたってことでしょ?でも暗黒神が現れたっていうニュースは無い」 「そう…だな……」 ゼシカの言葉の勢いに思考が追い付かないのか、ククールの返答はゆっくりとしたものだった。 「あの時は法皇様が倒れられてしまったから、しばらくの間は誰も杖に触らなかったんでしょうね。だけど、その後ずっと部屋に放っておかれたとも思えないの」 「…………」 「でね。私も杖を拾ったのはマルチェロだと思ってる」 ゼシカの耳が微かな金属音を捉える。 マルチェロの名を聞いて、ククールが身じろぎをしたようだった。 「……それが館の警護を任された聖堂騎士団長の仕事でしょうからね」 「よりによって……だよな」 ククールの声音には絶望的な響きが含まれていた。 それを聞いたゼシカは首を横に振る。 緋の髪が大きくなびいているのが、ゼシカに視線を向けずともククールには認められた。 「ううん。不幸中の幸いだわ」 その言い様に驚いて顔を上げたククールは、ゼシカの瞳に宿る強い光に貫かれた。不覚にも背筋に衝撃が走る。 「今確実に言えることは、私たちにはチャンスが残されてるってことよ」 「チャンスったってなぁ……。ここからじゃ何も」 「うん。まずはここから逃げ出さないとね」 ゼシカは大きくため息をついた。 世情を冷静に判断して微かな希望の光を見出したゼシカも、こと脱走に関しては良策が浮かんでいないようだった。 「それにあのマルチェロだしな。どうせロクなこと考えてねえぜ」 ゼシカは苦笑する。 「相変わらずな言い方ね。まぁ分からないでもないけど。でも、今に限ってはマルチェロに感謝してるわ、私」 「感謝だって?」 途端にククールの顔に不機嫌の色が現れた。 言うに事欠いてマルチェロに感謝とはどういうことだ?しかも直前の言い分と矛盾してはいないか? 「マルチェロが何を考えているかなんて私には分からない。だけど今、マルチェロは確実に杖の要求を抑え込んでくれてる。他の人だったら多分できないわ。そのことに感謝してるの」 「……そうか」 「それがどれだけ大変なことか、私には分かるわ。私の時は、サザンビークに戻った日の晩から杖の望む行動をさせられたんだもの」 ビクッ、と、ククールが身を強張らせた。 ククールの脳裏に、リブルアーチでの出来事が鮮明に甦る。 二度と思い出したくもない、ゼシカと刃を交えたあの悪夢のような出来事。 それを今度は兄で経験することになるのか? 考えたくはなかったが、その可能性は極めて高い。 そして、ゼシカの時とは決定的に違うことが二つあった。 ハワードの結界が無いことと、杖の封印が完全に解け、その魔力が格段に上がっていることだ。 それが意味すること……それで可能性が上がってしまうことは……。 押し黙ってしまったククールを見たゼシカの表情が、にわかにかき曇った。 ゼシカの目に映ったククールは、普段の彼からは全く想像もつかない、不安や恐怖に苛まれ、それを隠すこともままならない姿だったからだ。 「……これからのことを考えると、辛いわよね」 ゼシカは立ち上がり、スカートの裾についた土埃を払った。 「でも、ククールは私の何倍も辛いんだと思う」 そしてククールの背後に歩み寄る。 「私はククールみたいにホイミはできないけど……」 ゼシカは両腕を広げると腰を屈め、後ろからククールをそっと抱きしめた。 「……ゼシカ?」 「こうすると、辛い思いを和らげられることは知ってるわ」 そしてククールを抱きしめたまま、ゼシカはゆっくりと立て膝の姿勢に変えた。 「子供の頃、恐い夢を見て眠れなくなった時にこうしてもらったの」 まぁ、子供を抱く時とは姿勢が違うけどね、と、照れくさそうにゼシカは付け加える。 予想外のゼシカの行動に驚いていたククールだったが、やがて強張っていた表情を緩ませ、目を伏せると身体の力を抜き、背中を軽くゼシカに預けた。 徐々にその背中にゼシカの温もりが伝わってくる。そして、鼓動や息づかいも。 「こうしてると安心できるでしょ?一人じゃないって……」 そう言いながらゼシカは、額をククールの後頭部にコツンとあてた。 「全部一人で抱え込もうとしないで。さっきも今も……心が悲鳴を上げてたわ」 抱きしめる両腕に少し力が入る。 「話せば楽になることもあるし、何かいい考えが浮かぶかもしれないし」 ゼシカの言葉はそこで途切れ、静寂が二人の周囲を支配した。 あの日……初めてマルチェロに会った日以来、ククールは無意識のうちに他人に救いを求めることを避けるようになってしまっていた。 最初から救いを求めなければ、それをはね返されて心に傷を負う苦痛を味わうこともない。 そんな、哀しいまでの自己防衛の手段だった。 マルチェロのことをこぼした時も、傍に居たゼシカのみならず、誰の返答をも期待していたわけではなかった。 言葉を口に含むことで自分自身に無理矢理納得をさせる、独り言の延長線上のようなもののつもりだった。 しかし、ゼシカはそれを心の悲鳴だと言った。 ゼシカの返してきた言葉は、ククールの想像の範疇を越えていた。 決して絵空事ではない解釈をもってして、それまでがんじがらめになっていたククールの心を、いとも簡単に解きほぐしてくれたのだ。 そして両の手を大きく広げて、負の感情が放つ棘から心を守るように包み込んでくれた。 それは久しく存在を忘れていた、心の片隅に残る遠い過去の記憶と重なるもの……。 これからやらねばならないことを考えると、そのあまりの恐ろしさに身も心も押し潰されそうになる。 しかしゼシカとのやり取りを経て、彼女の言う通りに幾分かはそれも和らいだ感じがした。 マルチェロが暗黒神ではなくマルチェロのまま対峙することになれば、その先に光明を見出すことも叶わぬ夢ではないように思えてきた。 ゼシカの胸に背を預け目を伏せたままのククールの顔に、いつの間にか微笑が浮かんでいた。 それはまるで母の膝の上で微睡む幼子のように、安らぎに満たされたものだった。 ふっ、と、ゼシカの腕から力が抜け、ククールの胸前で組まれていたその手が解かれた。 ゆっくりと背後に戻されようとするゼシカの手を、ククールは名残惜しそうに手を伸ばし、眼前で捕らえる。 見るとその手の甲には、僅かばかりの擦り傷の跡が残っていた。 いずれ跡形もなく消えるであろうそれは、ゼシカから差しのべられた紛うことなき救いの証……。 その傷跡に、ククールは気付かぬうちに口づけをしていた。 一瞬の後、自身の行動に戸惑いながら握る手の力を緩め、背後に去り行くゼシカの手をククールはこの言葉で見送った。 「……ありがとう」 「どういたしまして」 ほんの小さな声で短く交わされた、互いの言葉の内に宿るものの大きさは、計り知れなかった。 ~ 終 ~